<Taking up one´s worries 自分自身の心配ごとを取り上げよう~『未来語りのダイアローグ』に向けた最初の一歩を学ぶ>

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長沼 葉月(首都大学東京 准教授・精神保健福祉士)

「未来語りのダイアローグ」とは?

「未来語りのダイアローグ」(Anticipation Dialogue)は、多機関や多職種が連携して、困りごとを抱えた個人や家族と関わるときの話し合い(ダイアローグ)の方法です。この方法は、1980年代のフィンランドで開発され、最初は様々な問題を抱えた家庭で育つ児童への支援から始まりました。いまでは幅広い領域で、多機関連携、多職種協働が行き詰った時にそれらを打開するための方法として活用されています。
こんにち、日本の福祉サービスを考える上では「多機関連携・多職種協働」が広く求められるようになっています。介護保険サービスや障害福祉サービス等を利用するためには、「ケアプラン」を作成し、ご本人やご家族を交えた「サービス担当者会議」等を開いて多機関・多職種が集まってご本人やご家族のニーズに沿った支援を展開していくように制度上取り決められているからです。児童福祉の現場でも、児童相談所と市町村と学校との連携は欠かせません。ご本人やご家族と支援者との関係性が良好な時には、これらの多機関連携・多職種協働に大きな難しさを感じることはないかもしれません。しかし、ご本人とご家族が対立したり、一つの支援機関とうまく行かなくなったりすると、多機関連携・多職種協働も一気に難しくなります。問題そのものの難しさだけではなく、支援者の感情的な負担感も重なり、状況を改善させる手立てが見えずに行き詰ってしまうことも多々あります。こうした行き詰まりをどのように打開することができるでしょうか。そのカギとなるのが「ダイアローグ」の方法です。「未来語りのダイアローグ」では、「ダイアローグ」の方法を、「多機関連携・多職種協働」をスムーズにすることを目的として特化させた手法を洗練してきました。話し合いの中で「問題」のとらえ方が変わるだけではなく、「感情」も解きほぐされていく劇的なプロセスを、ぜひ多くの方に体験いただきたいと思っています。

Taking up one´s worriesとは

「自分自身の心配ごとの取り上げ方Taking up one´s worries」とは、「未来語りのダイアローグ」を始めるための大事な準備の方法です。
多機関連携、多職種協働がうまく行かなくなる時、あなたはどのようなことを考えますか。これ以上なんかやれって言われたってもう無理だよ…。どう言ったら聴いてもらえるんだろうか。こんなこと言っても、どうせ誰も助けてくれないんでしょう。これはあの機関の仕事なんだから、あの人が頑張るべきだ…などと、心の中でいろいろな想いが渦巻きながらも、いざ「会議」の場面になってしまうと、大きな声で論理的にはっきりものをいう人に圧倒されて、自分の想いを何も語れなくなってしまう。頑張って言ったところで、何か楽になるわけでもないのであれば、黙ってその時間を少しでも早く終わらせる方がまし…なんてこともあるかもしれません。そのような状況を少しでも改善するための「ダイアローグ」を始めるためには、まずは「自分自身の心配ごと」をまっすぐに取り上げて、「ダイアローグ」に乗せていくことが必要です。
でも専門家であれば「専門家らしい態度」が必要なのではないか、自信なさそうに見えたら、信頼されなくなるのではないか、などと不安に思われることもあるでしょう。自分の心配を率直に他の支援者に伝えたら、「そうは言ってもあなたの役割だ」とけんもほろろに返されてお互いに感情を害した嫌な思い出がよみがえった人もいるかもしれません。「自分自身の心配事を取り上げる」というのは、案外簡単なことではないのです。だからこそ、このプロセスを丁寧に身に着けることで、そこから得られる成果は「自分自身の心配事の取り上げ方Taking up one´s worries」のワークショップでは、まず自分自身の心配事を率直に「ダイアローグ」につなげていくための方法を学びます。たくさんの心配事のうち、何を、誰に、どのように伝えるのか。そこをしっかり見つめていくうちに、多機関連携・多職種協働の行き詰まりをほどいていくための糸口を見つけることができるでしょう。
フィンランドで開発されたこの方法が、日本のあらゆる福祉現場で使えるとは限りません。しかしまずはこの「ダイアローグ」の方法の考え方や、「自分自身の心配事の取り上げ方Taking up one´s worries」の発想を体験的に学ぶことで、皆さんの実践現場に応用できる数多くのヒントを実感していただけることと思います。