デンマークのダイアローグ実践

  横浜に寄港中の豪華クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の船員と乗客が新型コロナウィルスに感染していることがデンマークのマスコミに伝わってきたのが2月上旬。一抹の不安を感じながら、日本から4名の視察研修者を迎えることになった。コペンハーゲン空港で初めて顔合わせして、全日程10日間の研修プログラムが始まった。

グルントヴィ銅像(デンマークのホイスコーレンの提唱者)
グルントヴィ銅像(デンマークのホイスコーレンの提唱者)

  日本からの視察研修の受け入れは、1970年代から毎年、数件ほど引き受けてきており、その分野は教育、福祉、医療、環境、建築、デザイン、福祉機器など幅広く及んでいる。研修者も若い学生から各専門分野の専門家や国会議員や自治体の首長までと、色々な人のご案内をさせてもらっている。もっとも、数年前に年金引退をしてからは流石に昔ほど無理はできなくなったので、引退後は特別な依頼に限って年間1−2件だけお世話させてもらっている。

  今回の視察研修プログラムは、NPO法人ダイアローグ実践研究所の代表で、過去30年ほどお付き合いさせてもらっている佐々木さんからの依頼で企画されたもので、研修者は異なった法人に所属している4名の福祉関係者からなっている。

  この4名による10日間の研修報告書をここに紹介したいと思う。この報告書には、教育や福祉現場で支援者たちが日常の課題にどのように向き合っているのかが観察され、報告されている。それ故に今日のデンマークの教育や福祉の現場で、ダイアローグ的な実践がどのように具体的に行われているかを垣間見ることができる、とても貴重な報告書だという印象を持った。

  補記すると、デンマークにおけるダイアローグの伝統は1800年代前半に遡る。絶対王政を廃止して、議会民主主議制度を導入するにあたって、当時、国民の8割を占めていた無学文盲に近い農民を対象に、「生きた言葉」による成人教育を行うために、フォルケホイスコーレ(寄宿制の生涯教育)が全国各地に作られることになった。この啓発運動はオープンで啓発的な教育方針と民主主義的な政治と文化の形成に大きな影響を持つことになる。以降、社会のあらゆる分野でダイアローグが展開され、政治、教育、福祉、医療、企業・労働関係、文化・スポーツetc. etc. の公共領域からプライベートな領域(育児、家族、LGBTなどのセクシャアリティ分野など)における日常生活のあり方に、大きく影響を及ぼしていると言える。

  ここに紹介する「デンマーク研修報告書2020年」からデンマークのダイアローグの実践を少しでも感じ取ってもらえれば幸いかと思う。

ゆたか

2020年8月5日

P.S. 視察研修の最終日、コペンハーゲン国際空港行きの列車に4名の日本人が大きなスーツケースとともに乗り込んだ。ほぼ満員だった車内に不安と警戒の空気が漂ったと感じられたのは、僕の思いすぎだったのだろうか。中国の武州省や横浜に寄港中のダイヤモンド・プリンセス号の感染状況が悪化しているニュースが入っており、4名の東洋人旅行者と一緒に密封した列車車内で数時間過ごすことに不安を感じるのも当然だろう。

デンマークは3週間後の3月11日に国境を閉鎖し、国全体がロックダウンをすることになる。