高木俊介(精神科医 ACT-K/たかぎクリニック)
「未来語りのダイアローグ」(Anticipation Dialogue)は、多機関、多職種が連携して行う対人支援活動をうまくやっていくための方法です。そのような活動は、往々にして各機関、各職種の間のコミュニケーションがうまくいかず、行き詰まってしまうことが多くあります。このダイアローグは、オープンダイアローグとともに1980年代のフィンランドではじまり、さまざまな場面で実践されてきたものです。現在では、オープンダイアローグとともにフィンラドのソーシャル・ネットワークにおけるダイアローグの方法として重要なものとなっています。
どのような場面で使われるものなのか
オープンダイアローグは精神科領域において精神病的危機状態を対象にしたダイアローグとして有名ですが、「未来語りのダイアローグ」は多様な関係者がかかわるさまざまな社会的場面で用いられます。それは多様な関係者がかかわりながら長きにわたって変化が起こらなくなってしまったり、異なる立場の人々のあいだで不安や不満がくすぶり、関係者相互の信頼が揺らいでいたりして、どうしていいかわからなくなってしまった状況を打開するために行われます。
具体的には、クライエント・家族と専門家ネットワークのあいだで問題がおこっている場合、あるいはひじょうに様々なネットワークのあいだ(例えば、職場内のチーム、病院と地域住民のあいだなど)で問題がおこっている場合です。
どのようなやり方をするのか
誰であれ、ある状況についておこっている「自分自身」の不安・心配に対して心から援助を求めることによって、ファシリテーターが手配され、ネットワークが集められ、未来語りのダイアローグが行われます。
未来語りのダイアローグの目的は、「未来」をめざし、不安を和らげて心配事を解決するために一緒に行動する計画をつくることにあります。そこではファシリテーターは、1)<対話>を促すこと、2)そのために構造を調整すること、3)必要に応じて「未来の想起」という技法を用いてこの目的を達成することです。「未来の想起」とは、未来において望ましい結果になっていると想定し、それにたどり着くための行動を計画する方法です。このようなダイアローグを用いて、悩ましい状況に対して多くの<声>からなる理解(ポリフォニー)をつくりだしていくのです。
どのような効果をもたらすのか
話を聴いてもらうこと、他者の話に耳を傾けることは、「今ここで」参加者をエンパワメントする力をもっています。さらに、好ましい未来について可能な限りいきいきと考えられ、みなが一致してそこに向けて行動する計画をつくっていくプロセスそのものが、その場にいる人たちに希望とエネルギーを与えます。未来語りのダイアローグが最もうまくいったときには、情緒的なふれあいが生じ参加者それぞれがエンパワメントされるのです。
今回の講演会では、「未来語りのダイアローグ」の創始者の一人であるトム・アーンキルさんを迎えて、ソーシャルネットワークを生き生きとしたものにし、多様な人々が立場を超えて共に生きていく社会を実現するためのダイアローグの思想と実践について学びたいと思います。
精神科医療の世界で話題となっているオープンダイアローグですが、その基本にあるダイアローグの思想は、精神科医療や福祉の世界を超えて、人と人のつながりを大切にした社会を実現する希望をもたらしてくれます。