「ダイアロジカル・スペース-対話の場と間-」開催報告と参加者からの所感

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この度は、トムさんが多くの実践をとおして築いた「Dialogical Space」という概念を、日本で初めて紹介させていただいた、オンラインセミナー「ダイアロジカル・スペース-対話の場と間-」に沢山のご参加をいただき、ありがとうございました。

今回の企画は、毎年フィンランド講師からの日本のみなさんへいただいている年始の挨拶動画から始まりました。そこで、トムさんから、執筆活動が終了したこと、ダイアロジカル・スペースに触れられ、日本で紹介したいとの言葉がありました。(フィンランド講師から年始の挨拶は、こちらから。是非ご覧になってください)
令和4年度、DPIでは、北欧講師を招いてのセミナーを開催できていなかったこともあり、トムさんからいただいた想いを、なんとかすぐに実現させたいと、企画・運営をさせていただきました。
そして、参加していただいたみなさまのおかげで、オンラインセミナーを実現させることができたことに心から感謝いたします。なお、当日の運営に関して至らない点がありましたこと、あらためてお詫び申し上げます。

このセミナーが参加者のみなさまにとって、日本で家族や仲間そして組織、社会までのあらゆる規模で、それぞれの課題に対話的に取り組む実践者のみなさんと、日本におけるその実践について対話し探究する場を作るための一助になれば幸いです。

また、さらなる一助として、当日参加された、「小野博史さん(兵庫県立大学 看護学部)」、「村山正治さん(九州大学名誉教授、PH.D 臨床心理士)・村山尚子さん(心理教育研修所赤坂主宰 臨床心理士)」から感想を頂きましたので、掲載させて頂きます。当日参加した方は、振り返る機会となり、参加できなかった方には、当日の内容を感じとっていただけると思います。是非、ご覧になってください。(掲載は、名前の順)
小野博さん、村山正治さん・尚子さん、お声を聞かせていただき、心から感謝いたします。

最後になりますが、DPIは、これからも日本とフィンランド講師の間で築いてきた繋がりを、さらに日本のみなさまに繋いでまいりますので、引き続きよろしくご協力を賜りたくお願いいたします。
そして、今後ともみなさんと一緒に、学び歩んでいければ幸いです。

NPO法人ダイアローグ実践研究所(DPI) 運営委員会
                                        

ダイアロジカルスペース所感

小野博史(兵庫県立大学 看護学部) 

2023年4月22日、Tom Arnkilさんによるオンラインセミナーが開催された。タイトルは「DIALOGICAL SPACE -対話の場と間-」である。スペース、なんと魅力的な言葉の響きだろうか。自分が対話的であろうとすることにいつも困難を感じている私も、そこに対話的な空間があるときには、自然と対話が生まれるという感覚をこれまでに何度も経験してきた。あの不思議で心地よい空間について知ることができると思った瞬間、私は参加を心に決めた。
オンライン会場には80名ほどの参加者が集っており、司会者のゆったりとしたアナウンスとともにセミナーが始まった。最初にブレークアウトセッションで3人のメンバーと顔を合わせ、互いのセミナーに期待する思いを共有し、期待感を高め合った。
セミナーでは、講師のTomさんによるDIALOGICAL SPACEの説明が行われた。応答的で優しい対話の空間は、物理的、時間的、社会的、精神的、言説的スペースの5つの要素が満たされた空間であるらしい。ひとつひとつの空間が持つ特徴について説明があり、あなたもそのような空間を持った経験はあるかと問われたとき、ふと、気の置けない職場仲間と仕事終わりに通った居酒屋の体験を想起した。
当時、市民病院の精神科病棟で看護師として働いていた私は、準夜勤終わりの同僚と近くの居酒屋で語り合う時間をとても楽しみにしていた。その居酒屋はチェーン店ではあるが、自分たちのホームともいえる居心地のよい物理的スペースであり、示し合わせたように集う仲間と冷えたビールを楽しみながら、先輩後輩も関係なく好きなことを語れる社会的スペースであり、仕事終わりの解放感と焼き鳥の味に浸りながら、ゆったりと自分の看護実践を見つめなおす時間的スペースでもあった。また、自分の思いを語り、仲間の思いを聞き、ときに生じる見解の相違も対立ではなく、違いとして「そういう見方もあるのか」と素直に受け入れ、互いを認め合い、成長し合えるような精神的スペースと言説的スペースも兼ね備えた、まさに応答的で優しい空間であった。
Tomさんから語られたもうひとつのテーマは、対話と文化についてであった。欧州では「私」という主体が何かをする(do)という考え方をすることに対し、日本の場合は何かになる(become)という考え方をする。日本には、自分を過度に主張しない慎み深さを美徳とし、ハーモニー(調和)を重んじるという美しい文化がある。しかし、巧みに文脈を読み、わかりきったことを言わないことの裏には、自分の意見が主張しにくいという一面もあるのではないだろうか。そこでTomさんから提案された考え方が「オープンハーモニー」、意見を言わず暗黙に理解するのではなく、お互いの信頼に基づいて、調和を保ちながらオープンに言いたいことを話すという対話の在り方であった。
後半のブレークアウトセッションでは、最初と同じメンバーでこのオープンハーモニーについて語り合った。日本人にとってのハーモニーとはなんだろう。調和もそうであるが、「和をもって尊しとなす」「和を乱す」といった言葉もあるように、日本人は「和」という考え方を大切にしている。そこで出てきた日本人的な特徴のひとつが「本音と建前のダブルバインド」であった。日本人は心に本音を抱えながらも建前を口にするため、相手はその建前を崩さないようにしながらうまく本音に寄り添うことが求められ、うまく立ち回れないと「無粋」とされてしまう、というものだ。日本人にとってのハーモニーがこの「建前」を崩さないためのものであるとするならば、Tomさんのいうオープンハーモニーとは「本音」を言い合っても和が乱れない場を指すのではないだろうか。日本の社会では、誰憚らず本音をいってしまう者は「はみ出し者」となってしまう。でも本当に居心地がよい場とは、誰もが安心して本音を口にすることができて、その言葉が誰を脅かすこともなく共有されるような空間のように思う。このブレークアウトセッションは、そんな語り合いが自然と行われる対話的な空間であった。
セミナーが終わり、心地よい余韻に浸る自分に浮かんできた考えは、「スペース」に対する認識の変化であった。これまで対話的な場を作ろうとしたときに、どこか自分は相手との間にある空間に意識を向けていたように思う。しかし、「スペース」は外の広がりだけではなく、自分の内側にも広がっているのではないだろうか。自分の中にいろいろな意見や考え方を受け入れる余地=スペースを創る。DIALOGICAL SPACE の5つの要素が生み出すものは、そういう心のあり様なのかもしれない。これからもいろいろな人と対話を重ねて、自分の世界を広げていきたいと思う。
                                         

トム・エリック・アンキルさんのセミナーで学んだこと

村山正治(九州大学名誉教授、PH.D 臨床心理士)
村山尚子(心理教育研修所赤坂主宰 臨床心理士)
  1. 「対話的スペース」という新しい視点としての、特に「スペース」という言葉で対話の本質に切り込む視点がとても新鮮でした。
    物理的スペース 時間的スペース 社会的スペース 精神的スペース 言語的スペース
    の5スペースで対話の構造を明確化された試みと理解しました。
    そして、これらが同時にその場で起こっていることが「対話的なスペース」なのだというトムさんの理解に、大賛成です。
  2. 「対話的スペース」は自分自身の世界の視点に気づき、他者にもそれぞれ自分視点があることを解らせてくれる。いわば当事者モデルとも言えると思います。
  3. われわれ日本文化で、調和を保ちながら、自分の言いたいことを言える「オープンハーモニー」というネーミングをトムさんからいただき、トムさんの聡明さと日本文化への理解度にわれわれは驚きました。
  4. 「対話的スペース」、つまり自らの経験を大切にし、そこから学びを得るフレームワークは、われわれが50年来体験しているパーソンセンタード・アプローチやエンカウンター・グループと共通点の多い体験であることも解りました。
  5. 今回われわれが体験したブレークアウトグループでのファシリテーターの方が、私どもを含めた参加者の話をよく聴いて理解して下さった感じを持っています。
  6. そして、これらが同時にその場で起こっていることが「対話的なスペース」なのだというトムさんの理解に、大賛成です。

以上、簡単ですがわれわれの参加体験の感想です。